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岡山地方裁判所 昭和24年(ヨ)13号 判決

申請人

高木莞一

外八名

被申請人

荒木茅一

外四名

主文

本件仮処分申請はこれを却下する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

事実

申請人九名代理人は、「被申請人荒木茅一、岡本寬、脇本寬龜千、吉田杢治は、吉備町議會に出席議決すべからず。被申請人吉備町長は右四名に対し町議会の招集を為すべからず」との裁判を求め、その理由として、「被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名は申請人九名と共に岡山県都窪郡吉備町議会の議員であつたが、昭和二十三年十月三十一日(町議会閉会中)申請人九名及び他の議員四名と共に議長高木莞一の許可を得て辞職した。

しかるに吉備町長難波貞一は以上の事実を無視し、町議会の招集をしたので、被申請人荒木、岡本等辞職議員は同年十一月十五日同町長に対し、もはや辞職して議員ではないと拒絶の通告さえしたものである。ところが同町長難波貞一はその後被申請人荒木茅一等四名の辞職を翻意せしめたとして、これらを残留議員としたため、結局十三名の同町議会議員の補欠選挙が行われ、昭和二十四年一月九日申請人九名は再選され、そのほかに新議員四名が当選した。

このようにして、同月十七日吉備町長難波貞一によつて招集された吉備町議会には既に右辞職によつて議員でなくなつた被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名が出席したので申請人等において、異議を申し立てたところ、これを採用しないのみか、更に正副議長ならびに各種委員の選挙をも敢行した。そこで申請人等はこれに関し異議申立をしたが同町議会はこれをも却下した。

しかしながら、被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名は前示辞職によつて議員の資格を失つたものであるから、同人等を相手取り、申請人九名は岡山地方裁判所に町議会議員資格喪失確認請求の本案訴訟を提起した次第であるが、右訴訟の確定するまで依然被申請人四名を町議会に出席せしめ、議決に加わらしめ置くときは議決に重大な異同を与えるはもちろん後日その取消を見るが如きことあれば、申請人等町民全体が償うことのできない損害をこうむるは必至であるから、申請人等はやむなく前記四名ならびに吉備町長を相手とし本申請に及んだ」と述べ、そ明として、甲第一ないし第十号証第十一号証の一ないし五、第十二号証を提出し、乙第一号証第三号証の一、二第四号証第七号証の成立を認め、同第二号証の一、二第五、六号証の成立は不知、同第一号証は利益に援用する、と述べた。

被申請人等五名は申請人等の申請を却下する。との裁判を求め、先ず本案前の抗弁として、行政事件訴訟特別法第十条末項には、行政庁の処分については、仮処分に関する民事訴訟法の規定は、これを適用しない、とあるが同条項は単に行政庁の違法な処分の取消又は変更にかかる訴訟のみでなく広く、行政処分一般に適用さるべきであり、従つて、申請人等が仮処分を求める本申請は不適法として却下さるべきであると述べ、本案につき主文と同趣旨の裁判を求め、申請人等の主張事実中申請人等が被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名と共に吉備町議会の議長高木莞一の許可を得て辞職したこと、被申請人荒木、岡本が昭和二十三年十一月十五日議員でないと拒絶の通告をしたこと、町長難波貞一のみが辞職翻意勸告を右四名にしたことはいずれもこれを否認し、その余の事実を認める。

被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名は町長難波貞一その他の勸告によつて翻意し、昭和二十三年十月三十一日提出した町議会議員辞職届を撤回したものであり、依然議員の資格を保有しておるのみならず申請人等の申請によつて被申請人四名が町議会に出席ならびに議決するのを停止されることは、申請人等の主張すると同樣の意味において町民全体の利害に重大な関係を有するといわねばならず、この点においても申請人等の仮処分申請は理由なきものである。と述べ、そ明として乙第一、第二号証の一ないし四第三号証の一、二第四号ないし第七号証を提出し、甲第二号証の成立を否認し、その余の甲号各証の成立をすべて認めると述べた。

理由

先ず本案前の抗弁について案ずるに、行攻事件訴訟特別法第十条末項には、行政庁の処分については仮処分に関する民事訴訟法の規定は、これを適用しない、と規定されてあり該規定はいわゆる取消訴訟に関するものゝすなわち適法な処分の取消又は変更を求める訴を本訴とする場合に限るものであり、同条各項いずれも行政処分が一応有効に成立していること、判決あるまでは一応有効のものとして取り扱われねばならないことを前提としている規定であると解すべきであるから、この点において全然その趣旨を異にする行政処分の無効確認ないし公法上の権利関係の不存在確認を求める訴を本訴とする場合には同条項を類推適用すべき根拠は条理上も規定上もごうも存しないといわねばならない。そこで行政処分の無効確認ないし公法上の権利関係の不存在確認を求める訴を本訴とする場合についてもなお仮処分に関する民事訴訟法の規定の適用を排除すべしとする被申請人等の主張は採用し得ない。

よつて本案について考えるに申請人等が本件申請の原因とする被申請人荒木、岡本、脇本、吉田の四名が正和二十三年十月三十一日議長高木莞一の許可を得て吉備町議会の議員を辞職したとの事実については当裁判所の容易に措信することのできない甲第四ないし第六号証の各記載をおいては他にこれをそ明するに足る何等の資料もない。從つて前記四名が議員でないことを前提とする本件仮処分の申請は自余の点に関する判斷を為すまでもなくこの点においてその理由なきこと明らかである。

そこで申請人等の本件仮処分の申請は理由なしとしてこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第九十三條を適用して主文のとおり判決した次第である。

(裁判長裁判官 中島貢 裁判官 三関幸太郞 裁判官 菅納新太郞)

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